事業内容

トレーサビリティ、KES、環境貢献、業務効率化…それぞれの取組が相乗効果でつながる。川十株式会社様

トレーサビリティ、KES、環境貢献、業務効率化…それぞれの取組が相乗効果でつながる。
川十株式会社様

【はじめに】

仕入れ・製造・納品までのトレーサビリティ(流通履歴管理)を実施し、在庫管理・品質管理を徹底。
KESをきっかけに社内での省エネを推進、電気使用量をぐっと削減。
「取り扱っている金属は硬くて鋭利なものだけど、働く人は柔らかくしたい」という川十株式会社の亥子社長にお話をお伺いしました。

【お話をして下さった方】

川十株式会社様
http://www.kawajyu.jp/

  • 代表取締役社長 亥子 勝高 様
亥子さま
亥子さま

【取材日】

2022年12月12日(月)

【内容】

川十株式会社
川十株式会社

「川十株式会社様は、どんな会社ですか?」

いろんな金属の加工・販売をしている会社です。
中間の加工を担っています。素材(金属)を作るメーカーや一次流通の問屋から金属を仕入れて加工しています。そして、私たちが加工した金属が別の会社さんの工場等で使われます。最終的には、㈱島津製作所・㈱堀場製作所・㈱SCREENセミコンダクターソリューションズ・㈱村田製作所・㈱ロームなどの主要な製品になっていきます。

加工するものは、例えば金属のパイプは、丸かったり四角だったり。丸い棒は直径もφ0.8mmのものから φ300 mm以上ぐらいのものまで、また長さは5mmから3メートル以上も幅広く、様々なサイズ・形状をした金属の切断加工(※1)しています。

(※1:加工の様子を動画で見ることができます)川十株式会社:バーチャルオフィスツアー
http://www.kawajyu.jp/special/virtual-tour/

「どんな金属を加工しているのですか?」

よく扱うのはステンレスです。ステンレスは素地のままで(つまり、塗装したり加工しなくても)錆びにくいという特長があります。キッチンのシンク、フォーク、スプーン、冷蔵庫やカメラの部品等、いろいろなところで使われています。

他にもたくさんの金属を扱っていますが、例えばチタン。チタンは硬くて軽い金属で、きれいに発色させることもできます(液に付けて電気を流して発色させる)。
部品として使われるだけでなく、チタンのコップやお箸、コースターなどもありますよ。

チタンのお箸。真ん中で分解することができる。見本(販売はしていない)
チタンのお箸。真ん中で分解することができる。見本(販売はしていない)

「普段あまり意識しないけれど、身の周りでたくさん金属が使われていて、知るとおもしろいですね」

そうなんです。金属って知るとおもしろいし、おもしろいものを考えて作ることができる。

うちの会社では、製品そのものを作っているわけではありませんが、ものづくりの下支えをしています。目立たなく、ニッチな業種ではありますが、絶対に無くてはならない仕事です。とはいえ、子どものなりたい職業ランキングベスト300があったとしたら、きっと、金属加工業というのは入っていないと思いますが…。
会社で取り扱っている商品は金属で、金属はすごく硬くて鋭利なものだからこそ、働く人は柔らかくしたいと思っています。

様々な見本
様々な見本

「トレーサビリティの管理をしっかりされているとお伺いしました」

トレーサビリティとは、どこで作られて、どういう流通を経て製品になったのかを、さかのぼって追うことができる仕組みです。例えば牛肉も管理されていますよね(一頭ずつ牛の耳にタグが付いていて、流通経路がさかのぼって分かる仕組みになっている)。

まず、金属の仕入れ時には、その金属の製造会社から保証書(ミルシート(※2)。商品の成績表みたいなもの)が付けられています。
その情報を管理し、仕入れた材の一つ一つに川十の独自QRコードを付けます。加工して出荷するところまで、独自QRコードで徹底して管理します。もし納品した製品で不具合があったとしたら、いつ納品したものかさえわかれば、「仕入先がどこか」「どのロットの製品だったか」まですぐに分かります。

(※2:ミルシート)鋼材メーカーが発行する鋼材の品質を証明する書類。工場や製作所を表すmill(ミル)と書類を表すSheet(シート)を組み合わせた和製英語。「鋼材検査証明書」。
独自QRコード
独自QRコード

実行するためには、「QRコードを付ける」「確認する」等、作業員の手間はかかります。他社でここまで細かくされているところの話は聞きません。でも、安心安全に使っていただくために川十では取り組もう、ということになりました。
そうすると、必然的に作業の効率化が必要になります。

「作業効率化のためにされたことは?」

トレーサビリティのための作業は増えますが、時間がかかりすぎるのも問題です。料理に例えると、食材のチェックに時間をかけすぎたら、料理する時間が少なくなりますよね。
川十では独自の管理システムを構築しています。業務の効率化をするために、時間の削減ができるところはないか、どこが無駄なのかを俯瞰の目で見る必要があります。
もちろんシステムはアップデートの必要があり、これまでにも何度も行ってきています。

ちなみに、全てのトレーサビリティをきちんとしたら、端材の材質もきちんとわかるので、分別リサイクルもきっちりできるようになります。
安心安全のために行ったことが、業務効率化にも、環境のことにも繋がってきています。

「KESの取組について教えてください」

社長に就任したときに、社会貢献・地域への貢献・環境貢献をしていきたいと思いました。
そこで、前から気になっていたKES(※3)に取り組むことにしました。

最初にKES構築のための打合せをした時に、会社の課題について聞かれたんです。その課題を盛り込みながら、KESでは3つの取組を進めることにしました。
まず「電力使用量の削減」。金属加工をするために、たくさんのエネルギーを使っています。
次に「自動車燃費の向上」。川十では約90%を自社配送していて、トラックが10台あります。
それから「不良率の低下」。不良率が上がると、再加工や再配達が必要になり、効率が悪くなり、エネルギーも余分に必要になります。

(※3)KES・環境マネジメントシステム・スタンダードとは
https://www.keskyoto.org/kesinfo/

「補助金を利用して、LED化や太陽光発電の設置をされたとお伺いしました」

KESに取り組み始めて、まず、すべての照明をLEDへ交換しました。水銀灯をLEDにしたのは、とても省エネ効果が大きかったです。蛍光灯も全てLEDにしました。

建物内のLED照明
建物内のLED照明

省エネを進めるにあたって、「無駄な電気を消す」「使わない機械は切る」ということをもちろんしますが、実際はそんなに大きな削減効果が出るわけではありません。業務をするときは機械を止めるわけにもいきません。

そこで、電気の見える化とデマンドシステムの導入をしました。
各機械にそれぞれ測定器を付けて、まずは把握をしました。どこの機械がいつ動いてどれぐらい電気を使っているのかが分かるようになりました。
さらにデマンド管理(※4)もするようにしました。

(※4:デマンド管理)電力の使用状況を確認するシステム。一般的には、デマンド制御装置と一緒に使用することで、一度にたくさんの電気を使用する際に、一定量以上の電気を使わないように制御します(重要でない機械の電気を止めるなど)。これは、ピーク電力(一番たくさん電気を使った量)によって基本料金が変わる電気の契約があり、工場等ではよくこの契約になっていることが多いため、ピーク電力が小さい方が基本料金を安く抑えることができます。
見える化。モニターに使用量が表示。
見える化。モニターに使用量が表示。

次に、太陽光発電を設置しました。発電した電気は自社で使用する自家消費です。
2~3年前に設置したのですが、ちょうど太陽光発電と蓄電池設置の補助金(※5)があり、活用しました。いま、工場や事務所、建屋の上に、34kWの太陽光発電を設置しています。
今期、さらに18kWを増設予定しています。

太陽光パネル
太陽光パネル

災害時に使用するための給電BOXですが、こちらは建物の外に設置しています。
近所の人にも使ってもらえるように、と思っています。災害時に、モバイルバッテリーやスマホなどの充電ができると助かると思うんです。

(※5:補助金)京都知恵産業創造の森(参考として、当時の補助金ではなく今年度の補助金ページになります)
令和4年度 自立的地域活用型再生可能エネルギー設備等導入補助事業補助金【受付は終了しています】
https://chiemori.jp/smart/support/y2022/r4_saiene.html

「KES取組の成果はありますか?」

取組基準年の2018年と比べて、2022年は電気の使用量が約3割も削減しています。

今のところ毎年減らすことができています。ただ、対策が進むと新たに取り組めることが減っていくために、「これ以上は難しい」という時がいつかは来るのでは、とも思っています。
今年も電気の使用量を減らすことはできましたが、昨今の電気単価高騰の影響を受けて電気代の支払いは増えてしまっています。つらいですね。

「今後、取組を進めたいことはありますか?」

配送のための10台のトラック対策を進めたいと思っています。いま、ディーゼル車を使用しています。排ガスを減らしたいということもありますが、配送時に出るCO2も減らしていきたい。
そのため、EVには注目しています。充電ステーションなどのインフラ整備の状況などもあるので、すぐに導入というわけにはいきませんが、そのうち必要と考えています。来年(2023年)4月以降に、三菱でEVトラックが出るようなので、そういった情報にも注目しているところです。

他に、弊社はFAXが多くて毎月6,000枚届きます。もちろん業務に支障のないようにしながら、FAXなどで使用する紙なども減らしていけないかなと考えています。

「健康事業所宣言をされたと聞きました」

「ボロボロになってしまった車のメンテナンスをするには、非常に時間と手間がかかる。
ボロボロになる前に定期的にメンテナンスをすると、比較的簡単ですぐになおる。」

この話を聞いて、その通り!と思いました。健康も、まさしくそうですよね。

私自身も、健康をテーマにしたセミナーで「缶コーヒーは砂糖のカタマリで体にいい成分は何にもないですよ」と聞いて、毎朝の缶コーヒーをやめました。自分の習慣を変えました。
会社のドリンク自販機も、トクホのものを入れたり、カロリー表示をするようにしています。カロリーを見ると、「おっ」と意識しますよね。昨日食べ過ぎたから低めのものにしようかな、とか。
ちょっとしたことでも、健康意識が高まれば良いなと思っています。

会社で運動促進のイベントもします。歩こう会やアスレチック、ボルタリングをしてサンガの試合を見る(※6)など。参加型でたのしく運動ができたらと思ってやりました。

(※6)亀岡のサンガスタジアムでの企画。スタジアムにはボルタリングの設備があります。

他にも、会社として、三大疾病の保険に社員全員が入っています。「何か」は無いのが一番ですが、万が一のことがあったときは少しでも助けになるようにと思っています。うちの会社には約30人が働いていて、もちろんいろんな考え方があります。でも、いい会社にしていきたい。そう思っています。

従業員さんに「この会社で働いて良かったな」と思ってもらえるような会社に、「うちの会社、こういうところ良いねん」と友人に話せるような会社にしたいなと思っています。

「社長に就任される前についてお伺いしてもいいですか?」

社長に就任して三年目になります。八代目の社長になります。
川十に入社する前には、大阪のスーパーで働いていたこともありますよ。野菜や果物の担当をしていました。夏にはスイカを100個、200個と切ったりしていました。
商売のノウハウで学んだものは色々とあります。お客様にアプローチをどうしていくのか。野菜果物は時間が経つと当然傷んでしまいますので、傷む前に購入してもらわないといけないですから。

「野菜と金属、ずいぶん違う分野ですね」

違いは「腐るか、腐らないか」ぐらいですよ。物を売るというところは、共通点があります。
仕入れをする。バックヤードがある。値付けをする。並べる。売る。

もちろん社長になって、経営者になって、大変なことはたくさんあります。色々なところを見て、情報を集めて、考えて判断していかなくてはいけない。たとえば災害時のことを考えてマニュアルを作ったりもしています(BCP認定※7)。
広い視点も必要だと感じています。

(※7:BCP認定)中小企業が策定した防災・減災の事前対策に関する計画を経済産業大臣が「事業継続力強化計画」として認定する制度。
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.htm

「亥子社長が、今注目していること、これから大事だと思うことは何ですか?」

デジタル人材を育てること、デジタル化に注目しています。お給料もPayPayで支払いができるような時代です。あと10年ぐらいで、世の中もぐっと変わるでしょう。

今年度、経産省のものづくりDX補助金の申請(※8)が通りました。
申請の際には、京都産業21でされている「よろず支援拠点」の無料相談(※9)を利用しました。
電力の見える化の次は、業務の見える化を進めたいと考えています。
社員がそれぞれどれぐらいの業務量をしているのか。件数は分かっても、ボリュームまではなかなか分からないので、それの可視化を考えています。デジタルツイン(※10)と言って、業務を「見える化」して、シミュレーションをして「最適化」します。AIとは少し違います。

(※8)ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金〔一般型・グローバル展開型〕
(※9)京都府よろず支援拠点
https://kyoto-yorozu.jp/about/
(※10)川十のデジタル活用・DX推進
http://www.kawajyu.jp/digitaltransformation/

「業務の効率化がさらに進みますね」

究極のサービスをしたいと思っています。具体的には、即日納品や翌日納品を増やしたい。
ものづくりの業界では、短納期というと1~2週間ぐらいをいうのですが、弊社は超短納期の即日・翌日にしていきたい。
現在、1日に受注が300件ぐらいありますが、そのうちの2割を即日納品しています。これをもう少し上げられないかなと考えています。
「また注文しよう」と思ってもらえるようにしていきたいですね。

でも、どんなシステムであっても、業務・運用しているうちの従業員がいるからから実現できるんです。
他社の方などから、うちの従業員さんのことを褒められるのが、仕事をしていて一番嬉しいですね。

【おわりに】取材を終えて

分かりやすく楽しいお話を聞く中で、それぞれの取組が相乗効果でつながっていることに驚きました。
品質管理のためのトレーサビリティが、端材の分別リサイクル・再資源化にも有効になる。
太陽光発電の設置だけでなく、災害時に使える給電BOXを地域の人にも使ってもらえて社会貢献にもつながる。
無駄な電力を削減するための電力見える化から、業務の見える化・効率化、そして更なるサービス向上へ。
唯一無二の会社。何より亥子社長の柔軟な姿勢と前向きなパワーを感じました。

(以上)

資料ダウンロード

京都の中小企業~省エネ・再エネ・環境経営の取組事例(2023年2月発行)画像