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【特集】暑さ対策!今こそ「学校断熱・遮熱」──“快適な教室”を地域の力で 実施事例から

記録的猛暑とエネルギーコストの上昇に直面する中、今、教育現場では「断熱」の重要性が改めて問われています。「断熱・遮熱」による快適な学びの空間づくりは、省エネへとつながり、安全で質の高い教育の基盤へとつながります。今こそ、学校断熱・遮熱の取組を広げてみませんか?

亀岡市立詳徳中学校

きっかけは生徒から

昨年(令和6年)10月に亀岡市立詳徳中学校の校長先生から連絡をいただきました。「3年1組の教室が異常に暑く、対応を考えているが協力をしてもらえないだろうか。」といった内容で、詳しく聞くと、生徒から声が上がり、生徒会で対策を考えていたところ、断熱に取組む京都府地球温暖化防止活動推進センターにたどりついたとのことでした。

校舎外側:左側は増築された教室で間を開けて3年1組、間を通って西日が当たる

暑くなるべくして暑い教室

昨年(令和6年)11月に学校へお伺いし、話を聞くと、2階の部屋は暑いが、特に3年1組が暑くエアコンが効かないため、生徒たちは休み時間に他の教室に涼みに行くぐらいとのことでした。現地の確認をしたところ、2階は最上階でほぼ角部屋であり(西側に建て増しをしているが、間があり、西日が教室の西側に直接当たる)、エアコンの室外機からの距離も長く、天井裏には断熱材がほぼ無く(屋根裏に結露防止程度)、庇はほぼ無いので直射日光が良く入り、暑くなる条件がかなりそろっている教室であることがわかりました。他の教室も暑くなる要素があり、夏場は暑いはずですが、特に3年1組が暑いのは西日とエアコンの室外機からの距離が効いているものと推測されました。

屋根裏に結露防止程度の断熱材はあるが、天井には断熱材は全くない
4教室を1台の室外機で賄うシステムで3年1組の外配管は長い

対策は窓と天井

センターで検討した結果、夏場の熱の侵入の多い窓と天井に絞り、遮熱タイプの内窓の設置と天井裏への断熱材敷き込みが効果的と判断し、生徒も参加するワークショップを取り入れた形での断熱改修を提案しました。全国の断熱ワークショップの話を聞いていた温暖化防止センタースタッフは、子どもたちの体験を重視したワークショップも入れ込むことができ、とてもワクワクしました。

教室の夏の暑さ対策は窓と天井

性能重視で既製品を採用

今回、暑さ対策となるので、遮熱を重視して、他の地域では行われている窓の自作を諦め、窓は既製品のLow-E複層遮熱タイプのものを設置することとしました。断熱・遮熱・気密性能を兼ね備えた既製品にすることで効果が大きくなります。自作の窓でも事前に大工が造作する部分が多くなる為ある程度のコストがかかり、既製品との差もそれほど大きくないと推測しました。ただし、できるだけコストを抑えるためにいろいろと検討した結果、外窓は上下に分かれているところを内窓は大きな1枚の窓とする方式を採用することとしました。これによって窓を上下2つに分けるよりも窓枠の造作部分も減らすことができコスト削減をすることができました。

施工前の窓
施工後の窓

工事は地元の工務店で

窓メーカーと地元の工務店に協力依頼を要請し、手を上げて積極的に乗ってきてくれた窓メーカーの株式会社LIXILと地元の株式会社沼田工務店と連携し改修工事を実施することとしました。通常の学校の改修工事となると大規模改修となり大手ゼネコンが受注し実施されるケースが多く、地元の工務店が直接請け負うケースは多くないと聞いています。今回、内窓設置と天井裏への断熱材の敷き込みといった地元の工務店でも実施しやすい工事を選択し実施することで、学校改修に地元の工務店が係わって、地域にしっかりお金が落ちる形での改修のモデルケースが作ることができました。

株式会社沼田工務店による窓枠設置
内窓「LIXILインプラスLow-E遮熱タイプ」の設置

 

費用は学校と市教育委員会が負担

一番の課題は費用面でした。どこがどう負担するのか。学校側と相談し、校長先生が教育委員会と折衝して、費用は学校と教育委員会が負担してくれることになりました。意見を出した子どもたちが卒業する前に、子どもたちの体験を交えながら実現できるようにと、急ピッチで計画を作成し、今年(令和7年)1月の初めには、実施を決定しました。

子ども達の体験

子どもたちが参加する体験は大きく2つ。内窓設置のための外枠の材料となる木材の塗装と天井裏への断熱材の敷き込みとしました。細かいところでは内窓の色も生徒会にて決定し、明るい色が選択されました。
外枠の木材塗装は、1月下旬に行ったため生徒会に呼びかけて1・2年生の有志8名が楽しみながら参加してくれました。塗装には有害化学物質を含まない水性塗料を選択し、生徒たちは安全に作業ができました。生徒の一人は「初めて建築系の作業をしてみて、見てみた感じより大変だったし、作業で腰がやられて大変やったけど、皆さんのサポートのおかげで何とかコツをつかんで塗ることができ、良い体験ができました。」といった感想を言ってくれました。
3月中旬に行った断熱材の敷き込み作業には、卒業した3年生も加わり生徒会有志の11名が参加してくれました。作業には移動式足場を用意して、安全面を確保しながら袋に入ったグラスウールを工務店の方が事前に外しておいてくれた天井の穴から、隙間なく敷き詰めることができました。センタースタッフが若干サポートはしたもののほぼ生徒たちで実施でき、予定より早く終わらせることができました。

生徒へ断熱遮熱の説明
窓枠木材の塗装

 

移動式足場に乗り断熱材敷き詰め
断熱材敷き詰め作業

効果

内窓を設置した直後から、教室に差し込む日差しの強さの違いを実感することができました。教室は冬場にもかかわらず、日中の日差しが差し込むときには窓際の温度が30℃を近くまで上がっていました。内窓設置と天井断熱をした結果、20℃前後で留めることができていました。この夏、温度の測定で効果をさらに検証していく予定です。

内窓の断熱効果
内窓の遮熱効果
天井の断熱効果
隣室との温度測定比較

社会的インパクト

令和7年3月29日に『3年1組だけ暑すぎる」京都亀岡市の中学校で生徒悲鳴 エアコンは正常動作なのに』といったタイトルで京都新聞にこの学校断熱の取組が記事として紹介されました。さらに、4月には京都新聞電子版としてタイトルを『「3年1組だけ暑すぎるのはなぜ」エアコンは正常 中学校で生徒が謎を究明、まさかの原因が→問題解決へ』と改題されると、4月27日にYahooニュースでトップに取り上げられました。さすがトップに載ると反響が大きく、1000件を超えるコメントが投稿され、2万の「共感した」が押されるなど、大きな反響がありました。
コメントの多くは、問題解決につなげた生徒や先生・教育委員会への称賛や生徒が社会経験をできた事への好意的なコメントでした。また、自分のこととして、自分の時代にはエアコンが無かったといった自分の学校時代の回想や現在のマンションや自宅で最上階が暑いなどのコメントもありました。

Yahooニュースのトップに掲載

ミスコミュニケーション

一方、現実の状況が知られていないせいか、エアコンの設計ミスや今まで改善してこなかったことへの批判、子どもに作業をさせていることへの批判がありました。これは、教育現場の現状や、断熱や遮熱に対する情報などを知らないことで起きるミスコミュニケーションだと考えられます。学校現場は、日々改善してきており、予算の中で優先順位を見ながらできることを進めてきています。ただし近年の暑さは異常となってきているので、その異常さに断熱対策などが追いついていないのです。確かに、このまま学校が暑いのを放置してしまったら、それを取り巻く大人の責任放棄だと考えられます。より早く多くの教室の温度の改善を早急に検討し、進めていく必要があることは現実です。また、今回は生徒への体験を重視し、作業を割り当てたのであって、労働をさせたわけではありません。子どもたちは多くのことで学び、考える機会が必要です。その一つの機会を提供できたのではないかと思っています。
体験を必ずしも優先する必要はなく、できれば断熱改修を早期に多くの教室で実現し、可能な範囲で生徒の体験の機会を提供していくことを考えてはどうでしょうか。

まずは学校から

まだまだ断熱や遮熱をしっかりと理解できている人は少ないのが現実です。断熱改修された教室での学びや体験を通じて、しっかりと実感できる機会を提供しながら、エネルギーの少なく快適な学び環境を整えていきましょう。そして、将来選ぶ住宅が断熱・遮熱を考えた家につながることを願います。

 

参考ページ

学校の断熱遮熱【京都府地球温暖化防止活動推進センター】https://www.kcfca.or.jp/project/school-insulation/

「3年1組だけ暑すぎるのはなぜ」エアコンは正常 中学校で生徒が謎を究明、まさかの原因が→問題解決へ【京都新聞】
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1448664

学校断熱ワークショップマニュアル【上田市民エネルギー】
https://eneshift.org/2024/06/14/1299/

冊子「教室からはじめるSDGS~教室断熱ワークショップの魅力のすべて~」【くらしふと信州】
https://www.kurashi-futo-shinshu.jp/report/2189/

学校断熱ワークショップで教室の暑すぎ・寒すぎ問題が解消! 生徒がDIYで「勉強に集中できる」効果実感、電気使用量も70%減 エネルギーまちづくり社・竹内昌義さん【SUUMOジャーナル】
https://suumo.jp/journal/2024/06/25/203148/

学校建築脱炭素研究会
https://sites.google.com/maelab.arch.t.u-tokyo.ac.jp/shcool-datsutanso/