【特集】地域にとって良い再エネをつくるには
2025年夏、北海道の釧路湿原近辺におけるメガソーラー問題が話題になり、世間の関心が集まりました。
そこで今回は、これからの地域と再エネというテーマでNPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)の山下紀明さんにお話を伺いました。
山下さんは、地域主導型の再エネ事業や、メガソーラー開発に伴うトラブル事例などの研究をされています。

2025年の後半はメガソーラーの取材が多かったです。北海道の釧路だけでなく、千葉の鴨川や九州の阿蘇の周辺など、あちこちでメガソーラーの問題が起こっています。自然破壊、災害のおそれ、景観が悪くなるなど、さまざまなトラブルがあります。
トラブルについて考える際には、太陽光発電だけではなく、土地の問題にも注目する必要があります。例えば釧路の周辺では、自然の価値は高いが土地の価値が低く値段が安いです。自然の価値が反映されているとは言いづらい状況です。
他の地域でも、景観や文化的な側面での価値は高いのに、土地の価値が低く、持ち主が持て余してしまっているところはたくさんあります。トラブルの多くはそういった土地で起こっています。
日本では、自然保護に関する法律が弱いので、そういった本当は価値がある土地も開発することができてしまう。さらに、開発や利用が特定の事業者の利益追求のみとなり地域への影響が顧みられていない、ということも問題です。
1980年代前後にゴルフ場の乱開発が問題になったことにも似ているかもしれません。
メガソーラーのトラブルは地域の住民にとって大問題。解決に向けて動く必要があります。また、それだけでなく、将来に向けて新たなメガソーラーのトラブルが起きないようにしていく必要もあります。
これは太陽光発電だけでなく風力発電など、一定規模以上の土地開発をする際には必要なことです。
日本では今後も再エネを増やすことが求められていきます。国の第7次エネルギー基本計画では2040年度の再エネ比率目標を「4~5割程度」に設定しています。
現在、各地でメガソーラーを規制する条例が増えてきています。
地域トラブルを引き起こす悪い事業は減らさないといけない。
一方で、地域にとってメリットがある再エネを増やすことを考える必要があります。
そのために、今チェックしておきたい2つの点があります。
(1)地域トラブルを防ぐポイントと再エネチェックリスト
(2)生物多様性との両立
(1)地域トラブルを防ぐポイントと再エネチェックリスト
もし自分の住んでいる地域に大規模な事業が計画されたとしたら、「事業者は信頼できるのだろうか?」「手続きをきちんとしているのか?」「儲かっているのは業者だけでは?」など、様々な不安が出てきます。
地域トラブルをあらかじめ防ぐために大事なポイントは3つあります。
・手続きを正当にすること
・分配を正当にすること
・信頼
地域住民を置き去りにせずに、地域のそれぞれの主体が考え、意見を出し、話し合う必要があります。
でも、何を確認して何の話をしたらよいのか? 情報を確認したり話し合うための基盤がないと、話し合いも難しいです。そこで、
ISEPが事務局となり、自然保護団体や大学の先生、法律家をメンバーとした「地域にとって望ましい再エネ研究会」ではチェックリストを作成しました。
地域にとって望ましい再生可能エネルギー・チェックリスト 太陽光・陸上風力 ver.1.0〈外部リンク〉
太陽光発電(一般)、営農型太陽光、垂直型太陽光、陸上風力などの種類ごとに項目が作られています。
webサイトには解説動画も掲載しています。

チェックリストをもとに話し合うことで、「手続きは、ちゃんとできている?」「もうかるのは業者だけになってない? 地域のメリットは何?」ということが確認できます。
また、話し合いの中で事業者が信頼できるかどうかも見えてくると思います。
●合意形成のポイント
再エネ事業者と、地域の各主体との合意形成のポイントは2つあります。
1つめは、何を重視しているのかについて、地域の各主体がお互いに把握することです。
例えば、希少な生物種を守ることが大事なのか、歴史的な景観や文化を大事にしたいのか、などが考えられます。
一般的に大事なことの中で「うちの町では特にこれが大事」をお互いに確認して進めることが大切です。
2つめは、早い段階(事業計画を変更できる段階)から、発電事業者が透明性が高い情報を出し、各主体と共有することが大切です。
チェックリストを見ると必要な情報の基本がわかります。
このチェックリストは、いろいろな主体に活用してほしいと考えています。
再エネ設備を設置したい発電事業者だけでなく、再エネ電気を使いたい需要家、新電力の会社、その地域の住民や自治体職員さん、ソーラーシェアリングだったら農業者の方、金融機関の方など、関係する主体は様々です。
また、チェックが多いから良いとか、少ないと悪いとかではありません。
話し合うためや気付きを得るためのツールとして活用してください。地域によって事情は違うので、必要に応じてアレンジしていただきたいです。
●長野県の事例
長野県では、「地域と調和した太陽光発電事業の推進に関する条例」を2024年4月に施行しました。
この条例では、事業計画を確定する前に、合意形成の手続き(説明会など)をすることや、住民からの質問に対する誠実な回答/対応を義務にしています。質問内容にそぐわない回答をしないように、誠実さを事業者に求めています。
そして、それをきちんと情報公開しています。
長野県のホームページには、どの地域で、どの事業者が計画を立てているのか、進捗状況や質問と回答、事業の取り下げ状況などについて、誰でも見ることができます。
長野県地域と調和した太陽光発電事業の推進に関する条例 手続状況公表ページ〈外部リンク〉
住民からの質問と回答を全て公開する。それを見ると事業者のことがわかってきます。
まじめな事業者ほど、説明会や意見への対応にコストをかけて、プロセスを大切にしています。
全国的な現状として、ちゃんとしない事業者のほうが低コストになるような形になってしまっています。まじめに取り組んでいる事業者が報われる制度にしていく必要があります。
●マイナスの影響を減らし、プラスの影響を増やすために
やらないことのデメリットは、なかなか見えないです。
例えば、再エネ事業を地域でやらないことで実は雇用を増やす機会が無くなったとか、地域外からエネルギーを購入するための費用が減らなかったなどの将来的なデメリットが出てくるかもしれません(例えば、再エネ事業をしておけば、原油価格高騰などの影響が少なくなったかもしれない、等)。
こういうことは想像がしにくいため、意識的に考える必要があります。
また、何かを優先したら何かに損失があるというトレードオフもあります。他方で、相乗効果を生むシナジーもあります。
だからこそ「この地域では何を大切にするのか」という視点で、バランスを考えることが大事です。
これからの再エネ開発でキーポイントになるのが「土地の高度利用」です。
営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)や、駐車場への太陽光発電設置(ソーラーカーポート)などは、もともと人の手が入っている土地に発電をプラスして有効活用しています。
自然共生型の太陽光発電も、土地の高度利用になります。
(2)生物多様性との両立
自然共生型の太陽光発電とは何か。
太陽光発電=自然破壊、というイメージがあるかもしれませんが、太陽光発電で生物多様性を保全する取組が増えてきています。
動植物の生息地の減少など、生物多様性保全への懸念が強まっています。一方で、気候変動が進行すればさらなる生物多様性の喪失にもつながるため、代表的な緩和策である再エネ拡大は必要です。
生物多様性と気候変動の問題について、同時解決が求められています。
●ドイツの事例
ドイツでは、自然保護法やゾーニングに関する各種法令により、再エネだけに限らず開発をするときは全て、生物多様性を低下させないような様々な方策が必要とされています。ドイツで補助金を受ける場合は、生物多様性保全型の太陽光発電にしなければなりません。
●イギリスの事例
イギリスでは、生物多様性ネットゲイン(Biodiversity net gain : BNG)政策がイングランド地方で適用されています。これは、再エネ開発をした結果、自然(生物多様性)が『減る』のではなく、むしろ『増える』ようにしようという制度です。
●生物多様性保全型の太陽光発電とは
発電所の建設・運用において生態系への影響を最小限に抑え、逆に地域の自然環境の保護や回復(ネイチャーポジティブ)に寄与する設計・管理を行う太陽光発電のことです。例えば、生き物の生息地を保全できるように場所に配慮して設置する、パネル下の緑地を保全する、在来種を植栽したり動植物の移動通路が確保できるようにする、定期的なモニタリングをして環境変化に対応する、というようなことを実施します。
●生物多様性のネットゲインとは
まず開発予定地にどんな生き物がいるのかなどを調査し、評価します。
次に開発することで保全する部分や自然がへる部分だけでなく、緑地を増やすことや生き物のすみかを作ることを計画し、それが開発前と比べて差し引きプラスになるかを確認します。これにより、自然保護と開発を両立させていこうという考え方です。
●日本での取り組み事例
日本でも、太陽光パネル周辺の草刈りをして管理する際に、イネ科だけを除草するが、他の花などは残すことで生き物の種類を減らさない取組があります。パネル設置後に放置せずにきちんと管理して、さらに、生物多様性が保てるように配慮した「おひさま進歩エネルギー」の取り組みについて注目しています。
「発電所の草刈り方法を検討中」おひさま進歩エネルギースタッフブログ〈外部リンク〉
他にも、環境省の「自然共生サイト」に認定された豊岡市のソーラーシェアリングがあります。
生物多様性を保全する自然共生型の再エネ事業を日本でも進めていきたいですね。
コウノトリ育む農法が評価。日本初、ソーラーシェアリングを含む 環境省「自然共生サイト」が豊岡市に誕生(みんな電力ウェブサイト)
最後に
再エネありきではなく、再エネ拒否でもなく、地域課題に対して「再エネを使ったら何ができるのか(例えば雇用が増える、再エネ事業で得られた利益を地域福祉に活用する、等)」を検討することが大切です。
自然破壊につながるメガソーラーのような地域トラブルを引き起こす悪い再エネ事業を減らして、地域にとってメリットがあり持続可能性を高める良い再エネ事業を増やすためには、具体的な話し合いが必要です。
再エネにより入ってくるお金で何ができるのか、レジリエンスやアイデアをたくさん出して話し合うことが、地域にとってマイナスの影響を減らして、プラスの影響を増やす選択につながります。
そのためには、回数を重ねて話し合いをすること、色々な視点を入れたレクチャーと議論の時間が必要です。
まずは第一歩として、仲間内やグループでチェックリストを見ながら気づいたことを話し合ってみてください。
一緒に地域にとって良い再エネを増やしていきましょう!


