事業内容

第11期推進員活躍中! 「フューチャー・デザインで 未来へ飛んで視点を変えよう!」

●●フューチャー・デザイン※1とは?

特定のテーマについて現在の現状や課題を考えるとともに、過去から現在までの変化を振り返った後、仮想将来世代(未来人)になってみて未来の社会をクリエイティブに想像する経験をして、その実現のための行動変容を促すのが「フューチャー・デザインワークショップ」です。

フューチャー・デザインワークショップでは仮想将来世代(未来人)になってみて未来ビジョンをリアリティをもって描く経験をしますが、その経験はものの見方や考え方、価値観、そして生き方にまで影響を与える可能性があります。2023年秋、宇治市で「地球温暖化」をテーマにフューチャー・デザインワークショップが開催されました。

全3回で開催され、1回目は温暖化の現状を踏まえつつ、過去30年から現在までの変化の実相を確認し、2回目は30年後の未来人になって「未来ビジョン」をつくり、3回目は「未来ビジョン」を検証するとともに、その実現に向けたロードマップを考えるというワークショップでした。

 

 

 

その世話役をされていたお二人、京都府地球温暖化防止活動推進員の山上さんと京都文教大学総合社会学部総合社会学科 特任講師の大西さんに、市民団体「フューチャー・デザイン宇治」の活動経験を踏まえて、フューチャー・デザインの魅力についてお話をお聞きしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※1「フューチャー・デザインとは、現世代が将来可能性を最も発揮できるような社会の仕組みをデザインすること、あるいはそのための学術研究と実践のことです。単なる仮想将来人を使ったワークショップ技法ではありません。」
出典:高知工科大学フューチャー・デザイン研究所
http://www.souken.kochi-tech.ac.jp/seido/practice/information/about.html

 

●●遠くを見て意思決定でき将来可能性を増大させる

お二人がフューチャー・デザインに出会ったのは、コロナ禍前の2018年(平成30年)に宇治市生涯学習センターで行われた「地域コミュニティの未来を考えるシンポジウム」。この時の西條辰義先生(当時 総合地球環境学研究所特任教授、高知工科大学フューチャー・デザイン研究所所長 現 京都先端科学大学特任教授)の講演に衝撃を受けたそうです。

シンポジウムの後、宇治市主催の全4回のフューチャー・デザインワークショップが開催され、参加された山上さんは、他のワークショップ参加者に声掛けをして市民団体「フューチャー・デザイン宇治」を18人で結成されました。

「西條先生の講演のポイントは2つ。人類が行っている活動はもはや限界に来ており、見直すべき時期に来ていること(プラネタリーバウンダリーなど)。そしてもう一つは、見直すためには、現世代だけでなく、『仮想将来世代』の視点で考えていく事が非常に重要であることでした。現世代のように目先のことにしか目が向かない意思決定では、資源、環境など人間社会の限界が見えてきています。このままでは人類がさらにまずい方向に進んでしまうので、まずは仮想将来世代を経験してほしい。」と語る山上さん。

「未来人になって発想するその面白さを多くの人々に経験してほしいです。かけがえのないこの地球では、現代に生きる我々だけでなく、未来に生きる子どもや孫、まだ生まれていない人々も含めて『未来を描く共通の利益』をもっているはずです。そうした『声なき声』を少しでも反映させていく事は、今のまちづくりにとって必要だと確信しています。フューチャー・デザインは、そうした未来の人たちを巻き込んだ、ある意味『民主主義の進化形』だと思っています。」とも。

法哲学が専門の大西さんは、「マーケットエコノミーや現在の民主主義の仕組みでは、身近な事にしか目がいかない人間の傾向を強化してしまい、その結果現代社会は、様々な限界に迫りつつあります。フューチャー・デザインによって、遠くを見る長期的な視点から意思決定することができるようになり、将来可能性を増大させて、今後の仕組みを変えていく事ができる可能性を感じました。」と語ってくれました。

 

●●過去⇒現在⇒未来に飛び、新しい視点を

山上さんは言います。「フューチャー・デザインでは、未来を見るだけでなく、過去を見て足場を確認し、それを踏まえて考えてみることが重要です。鳥の目の様に俯瞰して、過去・現在・未来を見ます。

過去の30年を見ても、足場は変わっていないようでも大きな変化があることに気づきます。例えば情報の分野では、パソコン、スマートフォンなど大きな変化がありました。

その上で30年後の未来を考えると大きく変わっている未来を自由に想像できます。そして今の年齢で30年後に立っている自分を想像し、自由に発想を独り歩きさせていきます。

仮想将来世代(未来人)になった時には、未来のことを現在進行形で話し、現在のことを過去形で話します。話しながら、「未来世界」の足場を組み立てていく感じです。ワークショップでは、進行形で会話がどんどん交わされると、未来が現実と思えるほどリアリティをもって感じられるようになっていきます。

ワークショップでは、基本的に発言は否定せず、自由に発言できる場をつくります。時には突拍子もないアイデアも出てきて、そのおかげでさらに自由に発想ができるようになる時もあります。

私が初めて未来人になった時には、一人の参加者から『第3次世界大戦が起きて人類は瀕死の重傷から立ち直った』といった発言があり、「何でもありなんだな」と思ったことを覚えています。第3次世界大戦は衝撃的でしたが、次の人は何を語り、その上にどう積み重ねていくのか楽しみになりました。

フューチャー・デザインワークショップで未来人になりきれる状態を、『未来へ飛んでいる』と表現しています。そして、未来人になりきれる『飛んでいる人』は将来世代の視点をもっていて、現代人の視点とは異なり、発言が違ってきます。現代人として話す時には、経験などの差から会話の主導権を握る人がいますが、将来世代になると、経験とか関係なしに自由にしがらみも無い意見が出せるようになっていきます。それまで現代人としては話せなかった若い人も、未来人になると話せるようになることも多いです。視点が変わるのです。その視点こそが、持続可能な未来への選択につながるのです。」

 

「また、フューチャー・デザインワークショップでは、多くが生活者の視点で語られます。未来人になりきるおかげで、未来でも生活者の環境が想像できるんです。例えば教育の話をした時に、暑い時間帯の通学を避けるべきという提案があり、それに対して他の方から「じゃあ子どもの塾の時間はどうしよう?」といった意見が出ていました。普通のワークショップでは学校との関わりで塾の学びのあり方をどうしようという話は出てきますが、さらに塾に行く時間をどう確保しようかみたいな話はあまり出てきません。未来ビジョンをつくり社会と仕組みを考えていく上では、そういった未来で生活しているひとりの人間として具体的に考える視点がとても重要だと思っています。」と大西さん。

 

●●多様な参加者が面白い

「ワークショップでは、飛びすぎて、飛躍した話になったり、テクノロジー信仰の話になったりしてくることもあります。例えば『30年後には技術革新で二酸化炭素を水に変えられるようになり、温暖化問題は解決しました。』とか、『ドラえもんのタケコプターで移動できるようになった。』といった意見が出ると、それ以上議論が進まなくなったり、全てテクノロジーで解決済となったりすることがあります。そんな未来人がいた場合には、ファシリテーターがいつ頃、どうやって?など深堀する質問をして議論を深めていきます。その過程で問題解決の難しさや解決するための課題、オーバーテクノロジーの限界がわかるなど学びが多いこともあるんです。

ワークショップで突拍子もないような意見を出す多様な人が参加することは、多くの学びが起きる魅力もあるのです。同世代や同性、同じ職業でなく、様々な世代や性別、様々な職業などの参加者が多様な方が、それぞれ視点が異なるので、とても面白いものとなります。」と山上さん。

 

●●行政の仕組みへ

「今後は多くの人にフューチャー・デザインを知ってもらい、認知を上げていき社会制度に位置付けられるようになってくれればと思っています。岩手県の矢巾町では町の総合計画の策定などに取り入れられています。ただし、宇治市のような規模の市では、出てきた意見をそのまま制度には反映しづらいのが現状です。アイデアの中には現時点では実現できる可能性が低いことがあったり、行政の意思決定では受け入れがたい内容のものだったりするからです。それでも市民の発案でいろいろな意見があることを行政が知っておいてくれることはとても大事だと思っています。今すぐに組み込むことができないアイデアでも、知っていればいつかそういう方法を選択することができるかもしれないからです。そして、将来的には制度としてフューチャー・デザインの手法を行政に組み込むように働きかけていきたいです。」と語る山上さん。

 

「国際的には、将来世代を代弁する機関も出来てきています。日本では、財務省ぐらいが少し取り入れていますが、今後は様々なところでフューチャー・デザインの手法を用いて、20年先や30年先を見据えた施策を進めていく必要があると思っています。」と大西さん。

 

●●まずは未来人になってみて!

「この地球社会の中で生きていく上で、将来世代の意見・発言権を補完する役割を担い、代弁していく事は重要です。温暖化など被害を多く被るのは将来世代です。その将来世代が住みたい、生きたいと思える社会を実現していく責任が現代人にはあると思います。ですから、私たちの選択が将来世代の生き方や価値観に関わることを意識する必要があります。

2023年秋、地球温暖化をテーマに開催したワークショップでは、参加者が述べ58名。実人数は28名でした。年代は10代の大学生から70代まで。男性が約3分の2で女性が約3分の1。3つのグループでワークを行いました。2回目の未来人になるワークでは、『未来人は高台へ移住している』とか、『気候変動で農業への関心が高まり各家庭での食糧生産がされている』とか、『地域でエネルギーの地産地消がなされている』などが語られていました。『地球温暖化』というテーマは未来社会の構築という意味でフューチャー・デザインの手法と親和性が高く、相性がいいと言えます。

今回は「ecoっと宇治」と連携してワークショップを開催しました。昨年度は京都中小企業家同友会宇治支部とコラボで開催しました。宇治市役所の職員研修に取り入れられたこともあります。いろいろなところとコラボしながら、多くの人に未来人の視点を持ってもらえるように、活動をしていきたいと思っています。

ぜひ、京都府地球温暖化防止活動推進センターでも、京都府地球温暖化防止活動推進員と一緒に実施してください。」と山上さん。

 

人は想像する以上のものを生み出すことは難しいものです。理想の未来をつくっていくためには、まずは、未来人になる経験をし、未来に飛んでみることが必要かもしれません。そして、未来人から現在必要な事を考えた時、その一つがこのフューチャー・デザインかもしれませんね。ぜひ皆さん未来人を経験してみてください。

 

 

取材:川手

インタビュイー

京都府地球温暖化防止活動推進員 山上義人さん

京都文教大学総合社会学部総合社会学科 特任講師 大西貴之さん

インタビュアー

京都府地球温暖化防止活動推進センター 事務局長 川手光春