事業内容

第11期推進員活躍中! 2050年の世界を想像しつつ、 今できることは何か、いつも探しています。 佐藤文絵さん

今年度(2023年度)、新たに推進員になられた佐藤文絵さん。
環境に負荷をかけない、脱炭素の暮らしを模索しながら、さまざまな分野で環境活動をされています。
お話を伺いました。

●●家庭からの「CO2排出量ゼロ」に向けて

京都市左京区のご自宅を訪ねると、お庭にはネギやブロッコリー、大根などの野菜が元気に育っていました。
生ごみコンポストと落ち葉堆肥で土はふかふか。住んでおられるのは築100年近い町家です。

「高性能な新築にも憧れるけど、自然素材で作られた古い家もいいですよね。13年ほど前にこの家と出会い、リビングや水回りをリノベーション。一部はペアガラスに替えて、床下に断熱材を少し入れました。でも、そのときもっと知識があれば、もっといい断熱対策ができたなと思ってます」と、佐藤さん。

 

昨年、初期費用がかからない「0円ソーラー」の仕組みを利用して、屋根に太陽光発電を設置されました。一年経っての感想をおききしました。

「シミュレーションより2割以上多く発電してるみたいです。リース代がかかる10年間は月々2,000円くらい家計の負担が増えると試算してました。でも実際は京都府の補助金も入れるとプラスマイナスゼロ。支出はまったく増えてません。びっくりです。本当に0円で導入できました。発電した電気は、売るより自家消費したほうがお得。だから昼間の余剰電力でお湯を沸かす“おひさまエコキュート”に替えるつもり。ちょうど給湯器の替えどきなのです。そしたらガスの使用量が半分以下になって、光熱費がさらに下がるはず。
遠い国から石油やガスを運んでくるより、遠い国の富豪に貢ぐより、目の前にある太陽からパワーをもらったほうがいいに決まってますよね。化石燃料から早く卒業したいです。家計も大助かりです!」

導入にあたり、京都府と京都市が運営している「京都0円ソーラープラットフォーム」を利用されたとのこと。このプラットフォームでは、初期費用ゼロで太陽光発電を導入できる「0円ソーラー」の民間の事業プランが紹介されています。

※京都0円ソーラープラットフォーム https://kyoto-pv-platform.jp/

「比較検討しやすくて、有難かったです。行政の紹介なので安心感もありました。ここから2社に見積りをお願いして、決めました。実はこの家に引っ越してきた13年前にも設置を検討したんです。でも葺き替えたばかりの屋根に穴を開けたくなくて、見送りました。当時は穴を開ける工法しかなかったけど、工法も進化しているんですね。キャッチ工法という穴を開けないやり方で施工してもらうことができました。太陽光発電については、パネルのリサイクルはどうなってる?パネルは国産?とか、いろいろ不安もありました。そういったことをひとつひとつ事業者さんに確認させてもらいました。だから納得して契約できましたよ」

再エネ100%の電気を使い、さらに太陽光発電を設置したことで、低炭素な暮らしが実現できているそうです。今は日本の平均と比べて1/3ほどの排出量とのこと。国の目標は「2030年までに家庭部門からのCO2排出量66%削減」です。佐藤さんのご家庭ではすでにクリア。さらに「CO2排出量ゼロ」に向けて、着々と歩を進めておられます。

工事は一日で完了。20枚のパネルが屋根に乗りました。

●●「腹落ちする」学習会

ご自身が参加されている「京都友の会」で、2022年はエネルギー2023年は断熱をテーマに学習会を企画・実施されました。断熱の学習会では、参加者にご自宅の「就寝前のリビング」「起床時のリビング」「入浴前の脱衣所」の室温を測ってきてもらったそうです。

「参加者のみなさんに、測った結果をシールで貼ってもらいました。家によって室温がずいぶん違うことが分かり、自分も含めて、皆が驚きましたし、盛り上がりました。室温の高い低いだけでなく、温度差が大きい家、特にリビングと脱衣所の温度差が大きい家はヒートショックの心配があるということも分かります」

このうち、4つのご家庭に温湿度ロガーを取り付けて、脱衣所とリビングの温度を数日間測定。グラフからは家の断熱性能による室温の違いが一目瞭然でした。さらに、無断熱の家から高断熱の家へ引っ越した人の光熱費が激減したリアルな数字も紹介。
また会場をサーモグラフィーカメラで見ながら、熱が逃げている箇所にどんな断熱対策ができるのか、具体的な方法についても学ばれたそうです。

当日共有した結果。同じ日に同じ京都で、家の性能により10℃近く室温が違うことを皆が実感

 

会場の様子をサーモグラフィーカメラで見るワークショップ。足元が冷えていること、窓から熱が逃げていることを視覚的に理解。まさに百聞は一見に如かず

 

「学習会は、講師のお話をきいて、最後に質疑応答というパターンが多いですよね。開催する側としては楽なのですが、 “勉強になったね”で終わってしまいがち。実際のアクションにつながるように、身近な実例を入れる、その場の状況を調べてみるなど、内容はよくよく考えて、組み立てるようにしています。知人・友人の実際の話、リアルな数字は、人を動かすパワーが違うなと思います」

学習会は、京都市の事業(2050年CO2ゼロどこでもトーク)を活用して実施されたとのこと。
断熱の学習会はアーカイブ動画も公開されています。https://youtu.be/PKYArbDgfBY

●●1人の100歩より、100人の1歩

佐藤さんは普段の生活の中でも、ごみの削減、プラスチックの削減をこころがけています。とはいえ、生活者の努力だけでは限界があるし、一部の人が努力しても社会全体は変わらない。そんな思いから、使い捨てのない社会を目指して活動する「くるん京都」という市民プロジェクトに参画されています。

「くるん京都はInstagramで知りました。量り売り、マイ容器の持参を歓迎してくれるお店をまとめたくるん買い物マップの作成が最初の活動。その後 “マイ容器使えます”と刻印した木製のプレートを作り、お店で掲示してもらうようになりました。なるほど容器を持ってくるという選択肢があるのね、と気づいてもらえるようにと思って」

ミスタードーナツでもマイ容器でお買い物。容器持参OKのお店は、意外にも多いのだそうです

 

パン屋さんに置かれた木製プレート。端材を使って、ひとつずつ作成しているそう

 

今では、生活者・事業者・行政との対話の場を作るなど、活動の幅を広げています。少し前にゼロウェイストスーパーの斗々屋(ととや)の代表を講師に迎えたイベントをされています。どのような会だったのでしょうか?

「まずは斗々屋さんの先駆的な取り組み、試行錯誤をお話いただきました。とても具体的で、他の事業者さんにすごく参考になるお話だったと思います。後半はオープンミーティングと題して、くるん京都から話題提供をしながら、対話の時間にしました。京都だけでなく、他府県からも異なる立場の人が集まり、有意義で、熱気のある場になりました。みんながエンパワーメントされるような。行政の方々が議論の輪に入ってくれたのも嬉しかったです」

 

斗々屋×くるん京都オープンミーティング みんなでつくる、ごみを生まない「小売」

 

そのほか、京都市の廃棄物減量等推進審議会の市民委員を務めるなど、ごみ、資源循環の分野で多く活動をされています。

「生活とごみは密接に繋がってますよね。大量生産、大量消費、大量廃棄から私たちはどう脱却していけるのか。これからも考えて、できることを探していきたいです」

※くるん京都 https://www.kurunkyoto.org/

●●いろいろな人を巻き込む方法を考えたい

高校の時、社会の先生の影響で環境問題に関心を持ったという佐藤さん。気候変動問題が途方もなく感じられて、しばらく遠ざかっていたけれど、お子さんが生まれてから「何かやらなかったら、後悔する」と、活動を再開されたそうです。
「何をしたらいいのか、わからない」と思っている方に、おすすめの本があるそうです。

「気候変動とどう向き合ったらいいのか、もやが晴れて視界が完全にクリアになるような本です。世界全体で、何をどうすれば、どのくらいCO2が削減されるのか、ものすごく具体的に書かれています。気候変動を止める方法はすでに揃っていることがわかったし、大きな視点をもらいました。私にとっては、希望の書。知りたかったことが全部書いてありました」

『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』(左) 『リジェネレーション 気候危機を今の世代で終わらせる』(右) 共にポールホーケン編著・江守正多監訳/山と渓谷社刊

 

最後に、今後の活動についてお聞きしました。

「とにかく、できることは何でもしたいと思っています。我が家の子どもたちは今小学生。彼女たちが子育て世代になる2050年ごろの世界をよく想像するんです。そのとき、夏休みに子どもが鴨川で水遊びができるような気候であってほしい。誰もがおいしいごはんを食べられる世界であってほしい。そのために、今の私たち、大人たちができることはなんだろうと、いつも考えています。

ここ数年、環境についてあれこれ動いてきたことが、ライターの仕事にも繋がってきました。資源循環、企業の脱炭素の取り組みなど、取材して執筆する機会が増え、ありがたく思ってます。取材したいことが山積してます。仕事としても取り組みたいし、市民の立場としては審議会も重要。子どものことを思うと、学校の再エネ化や断熱のことで何かできないかな…などなど、アイディアも山積してます。出来る限り実現していきたいです。友人に伝えるように、地道に。でもいろいろな人を、環境に関心を持っていない人こそ、巻き込んでいきたい。

よく思い出すフレーズがあります。“変化というものは、たいてい起こす直前が最も難しい。自分が何かを失うのではないかとばかり思っていて、代わりに何かを得るかもしれないことを想像するのがひどく難しくなってしまう”――イギリスの経済学者ケイト・ラワースさんが書かれていました。

脱炭素は非現実的とか、ガマンとか、いま享受しているものが取り上げられるように捉えて、本当は気になってるのに目を逸らしている人が多いと思っています。そんな空気が変わっていくように、ポジティブなメッセージを発していきたい。だって、実際太陽光はお得だし、断熱のしっかりした家は健康的だし、ごみの少ない暮らしは快適。いいことがすごく多いですよね!」

 

最近佐藤さんが執筆した記事。廃食用油を燃料化するレボインターナショナルの取り組みについて『こごみ日和』(京都市ごみ減量推進会議発行)で紹介しています。

※『こごみ日和』 https://kyoto-gomigen.jp/publications/index.html

(以上)