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【特集】専門家に聞く「地域と調和した再生可能エネルギー導入の鍵 ゾーニングとは?」

「地域と調和した再生可能エネルギー導入の鍵 ゾーニングとは?」
市川大悟氏(WWFジャパン)

昨年5月、参議院で地球温暖化対策推進法(以下、温対法)の改正案が可決・成立をしました。
この温対法の改正で、各地で“ゾーニング”と呼ばれる新たな取り組みがスタートすることになり注目を集めています。
ゾーニングとは何か?いまなぜ必要なのでしょうか?

 

進む再生可能エネルギーの普及と課題

地球温暖化が深刻化するなかで、温暖化対策の国際条約である「パリ協定」が2015年に採択され、
今日まで各国で温暖化対策が加速しています。産業革命以降の気温上昇が2℃を超えると甚大な影響が生じると予想されるなか、
いま世界はさらに高い目標である1.5℃に抑えるため、2050年までに“脱炭素社会”を実現できるよう動き始めています。

 

出典:自然エネルギー財団、国別の電力

(https://www.renewable-ei.org/statistics/international/)

その対策の最たるものとして期待されているのが、CO2を排出しない“再生可能エネルギー(以下、再エネ)”です。
すでに世界では電力に占める再エネの割合が優に20%を超える国も多くあるなか、日本はようやく20%に届く程度にとどまっています。
世界でも五本の指に入るCO2排出大国の日本でも、早期の再エネの普及が求められています。

 

その日本も近年は急速に再エネの普及が進みつつあります。しかし、ここにきて大きな問題に直面しています。
急速な開発が、地域の自然・社会環境に影響を与えてしまい、各地で再エネの開発に対する反対やトラブルが生じつつあるのです。
一部では、条例で再エネの導入に規制をかける自治体も出始めています。

国土の狭い日本では、再エネの導入(特に規模の大きなもの)に適した土地は少なくなっており、
他の土地利用とバッティングする場所で計画がされたり、再エネを設置できるポテンシャル(資源)の多くが
自然豊かな場所と重なっていることが背景にあります。

図出所: WWFジャパンで作成

気候変動が自然環境に及ぼす影響を考えれば、自然保護の観点からも、再エネの普及は実現しなくてはなりません。
しかしそのなかで、地域の社会文化・自然環境を保ちながら、いかにバランスの取れた開発を進められるかが、いま問われています。

 

地域が適地を決める”ゾーニング”がスタート

こうしたなか、地域で無理なく再エネの導入が進められるようにする、ある取組みが今年から始まります。
それがゾーニングと呼ばれる取組みです。
改正された温対法では、自治体関係者を中心にゾーニングの実施を新たに求めています。
では、ゾーニングとはどのような取り組みでしょうか?

 

図出所: WWFジャパンで作成

 

ゾーニングとは、一言で言えば“土地の色分け”です。その地域の空間情報
(例: 保護区の場所や、開発規制のかかる場所など、土地に関する情報)
をいくつも重ねて議論していくことで、「開発をしても良い場所」や、
逆に「開発できない場所」を決めていくものです。

これは、法律で開発規制のかかる場所がどこかを調べるだけの単純な作業ではありません。
併せて、法律では開発規制はされていないが地域にとって大切で守りたい場所がどこかを話し合って決める作業でもあります
自治体職員、自治会、企業、専門家、NPOなど、多様な地域の関係者があつまり、
“どこなら再エネ設備をつくってもよいだろうか”を地域の価値観をもって検討・評価をしていくのです。

 

例えば風車を考えてみましょう。再エネのなかでも風車はとても巨大な構造物です。
効率よく多くのCO2フリーの電気を発電できる反面、設置する場所によっては、騒音が生じたり、
周辺の景観に影響を及ぼすことが考えられます。また山間部であれば、里山など林地を伐採することにつながる可能性があります。
しかし、こうした影響を受ける可能性がある場所は、必ずしも法律で開発が規制されていません。
これは景観であれば、どのような景観地を守るべきかは、地域の価値判断に大きく依存するため、一概に規制がかけられないためです。

改正温対法では、市町村ごとにゾーニングを実施することを新たな努力義務としており、
開発してもよい適地を「促進区域」として設定するように求めています。
今年6月の施行期日から、順次各地でゾーニングに取り組む自治体が出てくることが期待されています。

 

ゾーニングを地域の在り方を見直すきっかけに

ゾーニングは、単に地域のどこで再エネが開発できるのかを決める行為に留まりません。
地域の“これからの在り方“を決める大きな議論のきっかけにもなります。

ゾーニングの検討過程では、そもそも、どれくらいの量の再エネを地域に導入していくべきかを決める必要があります。
そのためには、地域が現在どれくらいの支出をエネルギーに費やしているのか、再エネを導入した際にどの程度の収入を見込めるのか、
それによってどのような社会・公共サービスが享受できるようになるのか(享受できるようになりたいのか)など、
エネルギーに留まらない多面的な話し合いが必要になります。

つまり、ゾーニングは、地域の行く末を決めるきっかけであり、1つの手段であるともいえるのです。
そしてこれを決める主役は、各地域のみなさんです。

出典:環境省、「気候変動長期戦略懇談会」提言より

現在、日本はエネルギー資源の多くを海外からの輸入に頼っており、年間10兆円を超える資金が海外に流出をしています。
自治体(市町村)の多くが、地域内総生産額の5~10%に相当する金額を赤字のエネルギー費用として支出し続けている状況です。
地域環境の保全と開発の促進を“両立“しつつ、持続可能な社会を実現できるよう、多くの市民がゾーニングに取り組んでいくことが、いま求められています。