事業内容

【特集】龍谷大学学生気候会議

気候ガバナンスへの参画を期して

 

欧州諸国でその取組が進んでいる気候会議。2021年度に龍谷大学で「第1回学生気候会議」が開催され、2022年12月には第2回が2日間にわたり行われました。その実施方法や会議の内容について龍谷大学政策学部教授の的場信敬氏にお聞きしました。

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皆さんは、「気候会議(climate assemblies)」というものをご存知でしょうか?

気候変動に対する政策・事業の開発や実施の意思決定プロセス(=気候ガバナンス)に、市民の意思を反映させるためのツールで、アイルランドや英国など欧州諸国を中心に、国・自治体レベルで実施されてきました。日本でも国内初の気候会議とされる「気候市民会議さっぽろ」を皮切りに次第に取り組みが広がりつつあります。

龍谷大学では、大学全体の取り組みとしては全国初の「学生気候会議」を2021年度に開催し、2022年12月には第2回を開催しました。
この度こちらのサイトで本会議についてご紹介する機会を頂きましたので、目的と成果に注目しつつイベントを振り返りたいと思います。

第2回の龍谷大学学生気候会議の一番の目的は、「2039年までのゼロカーボンユニバーシティの実現を宣言した龍谷大学の気候変動対策に学生目線からの提言を行うこと」でした。第1回の会議(2021年度)では、学生自身の気候変動問題への理解の深化や主体性の涵養を主眼としていましたが、2022年度はより本来の意義である「気候ガバナンスへの直接的関与」を意識しました。参加者の募集方法も、キャンパス内でのポスター掲示、全教員へのチラシ配布に加えて、無作為抽出で短大を除く全9学部の学生のうち20%に案内メールを送信することで、より気候会議の手法に近づけた募集を行いました。その結果、8学部から21名の参加を得ました(加えてファシリテーター役の学生7名)。

気候会議で議論すべきテーマは多岐に渡り、2日間では到底カバーできないため、事前に講師の方々との打ち合わせにより、3つのテーマ「大学のハード面での脱炭素化」、「人材育成における大学の役割」、「伏見エリアの脱炭素化における大学の役割」を選定しました。そのうちハード面での脱炭素化については、さらに「建物・エネルギー・食・交通」のサブテーマを設け、それぞれについて大学の取り組みを分析し検討を行いました。

●● 会議の特徴

(図1) 第2回龍谷大学学生気候会議進行表

会議進行の詳細については(図1)をご覧頂くとして、ここでは特に工夫した点をいくつかご紹介します。

はじめに、アイスブレイクを兼ねて「カードゲーム2050カーボンニュートラル」を実施した点です。このカードゲームは、娯楽的要素によるリラックス効果はもちろん、ゲームを通して脱炭素への取り組みにおける利害関係者の協力の重要性をロールプレイで学ぶことができるため、特に気候変動問題に詳しくない(と思っている)参加者にとっては、緊張を和らげる良い時間となりました(図2)。

(図2) カードゲームの様子

次に、1日目のみでしたが、「ファシリテーション・グラフィック」を採用したことです。この手法では、講義や議論の要点を絵と文章で模造紙1枚にギュッと詰め込んでまとめてくれるので、振り返りを行う際にとても有益です。もちろん、まとめる方の力量にも大きく左右されるのですが、今回ご担当頂いた外崎さんのスキルが素晴らしく、学生からも講師の方々からも感嘆の声が挙がっていました(図3)。

(図3) ファシリテーション・グラフィックの1枚(外崎佑実氏提供)

また、会議のアウトプットとして、グループワークからの提言と、個人の意見集約の結果、という2つを設定したことも特徴です。従来の気候会議では、グループで議論は行っても、グループとしての意見はまとめず、個人へのアンケート結果のみで市民の意見を収集する、ということも多いのですが、私たちは、チームとして意見をまとめていくことの重要性と難しさを参加者に経験してもらうことも重視しました。

最後に、これは工夫というよりもこだわりですが、大学と京都市からの情報のインプットを行ったことです。大学からは学長と副学長が参加し、京都市からは環境政策局の方々にお越し頂きました。京都市は昨年11月に脱炭素先行地域に指定されましたが、龍谷大学はその取り組みのパートナーとして登場しています。より具体的な政策や取り組みの情報を踏まえて、京都市の取り組みにおける大学の役割について、参加者に議論をしてもらうことを目指しました。

●● 会議のアウトプット

1)グループワークの提言

当日は、3つのテーマについて、6つのグループ(2日目は体調不良による欠席者が出たため5グループに再編成)に分かれて議論を行い、大学に対する提言をまとめてもらいました(図4)。そのいくつかをご紹介します。

(図4) グループワークの様子。学長もつい積極参加です。

テーマI:大学のハード面での脱炭素化

  • 放置林対策と連動した国産間伐材活用による省エネ建築物の採用
  • 瀬田キャンパスにおけるソーラーシェアリング、学生・教職員・外部専門家による発電ベンター設立の促進
  • キャンパス内フードロスを削減するための、フードバンク、バイオマス活用など
  • 学舎間大型バスの運行本数見直し

テーマI I:人材育成における大学の役割

  • 就職だけでなく人生を見据えたライフワークを学ぶ視点
  • 市民に大学施設を開いて交流
  • サマーセッションを活用した学部横断型の仏教SDGs教育
  • 学生の地域活動を支援する役割

テーマIII:伏見エリアの脱炭素化における大学の役割

  • 自家用車の利用を減らすための市民向けコミュニティ・バスの運行
  • 伏見をもっと知るための街歩きやフィールドワークの実施
  • 子育て世代の流出を止めるための研究・実践活動

2)参加者個人の意見集約結果

全プログラム終了後に、Google Formを用いて、3つのテーマに関する合計27問(うち自由記載2問)のアンケートを行いました。特に特徴的だった結果の質問を紹介します(回答者数:24)。

【原発エネルギーの活⽤】
⼆酸化炭素排出量を出来るだけ削減するために、原⼦⼒発電由来の電⼒を使⽤する(外部から購⼊する):
24名中19名が「あまり重視する必要はない」「まったく重視する必要はない」と回答

【脱炭素化に関する科⽬、カリキュラムの強化】
全ての学部において、脱炭素化を学ぶことができる科⽬やカリキュラムを増強する:
24名中23名が「とくに重視すべき」「できれば重視すべき」と回答

【国や自治体との政策連携の強化】
国の脱炭素戦略や自治体の政策・事業の実践を進めるための協力関係の強化:
全ての回答者が「とくに重視すべき」「できれば重視すべき」と回答

議論する時間が少なかったこともあり、グループワークの提言は十分に練れたものでは正直ありませんが、それでも学生目線で大学の取り組みを分析し、そのあり方について大学(そして脱炭素先行地域を進める京都市にも)に意見を伝えたことは、双方にとってとても有益なものでした。また、個人意見については、今回は意見が偏ったものを紹介しましたが、かなり回答がバラけたものも多く、脱炭素社会の挑戦において方向性を合わせていくことの難しさも感じました。これらのアウトプットについては、最終的に提言書として大学に提出するとともに、結果のより詳細な分析については、今後書籍や学会などで発信することにしています。

最後に、今年度の会議は、龍谷大学地域公共人材・開発リサーチセンター(LORC)と学生団体「OC’s(オックス)」の共催で行いました。このOC’sという団体は、昨年度の参加者が、会議の経験に触発されて新たに立ち上げた団体で、現在脱炭素に関わるさまざまな取り組みを展開し始めています。大学への提言はもちろんですが、このような社会変革を目指す学生を生み出していく、これこそが、学生気候会議の最大の成果であり、脱炭素社会の挑戦における大学の最重要の使命であると思います。

龍谷大学政策学部教授
的場信敬